今回はニューヨークの航空会社で、グランドスタッフ(地上勤務員)として勤務していた際の、最も苦痛だった1日を紹介します。
それは、勤務先のチャイナエアラインズのニューヨーク→台北行きのフライトが、エンジントラブルで13時間遅延した日のことです。
そもそも航空業界では、エンジントラブル系の遅延が最も厄介です。
というのも、天候などの不可抗力での遅延ならば、クレームは出るものの納得してもらえる場合が多いです。周りの他の航空会社もみんな同じ状況ですから。
しかし、エンジンなどのメンテナンス系での遅延は非常に厄介です。完全に航空会社側の責任ですし、クレームを受けても合理的な返しができず、ひたすら謝るしかないのです。
さらにその修復に13時間もかかるとなれば、乗客はところ構わず、完全にブチギレます。
さらにさらに、そんな大トラブルが発生したのが、よりにもよって、まだ僕が働き始めて1ケ月にも満たないヒヨッコもヒヨッコ🐣の頃(当時28歳)でした。まだ、ぴよぴよぴよと空港内をヨチヨチ歩き始めたばかりの時だったのです。
それはそれは大変でした。今回は、そんな怒号が飛び交った日を振り返っていきたいと思います。
フライト直前にトラブル発生
その日もチャイナエアラインはいつも通り定刻の13:30にJFK国際空港を出発予定でした。300人弱の乗客もすでに搭乗ゲートに集まっています。機体のボーイング747もすぐ外に止まっています。
しかし、肝心のゲートが開きません。先輩たちもなんかバタバタしています。
なにかと、思い尋ねると
先輩「エンジン系のトラブルが発生した。修理時間は4時間くらい。あなたは乗客にミールチケット(食事の無料券)を配って、どこかで食事してもらってきて!」
とのこと。
さっそく異変を察知して騒ぎ出した乗客たちの中に飛び込み、現在の状況を伝え、ミールチケットを配り始めました。
しかし、当然ながら
「フザけるな!」
「別の航空券を手配しろ!」
「返金手続きをしろ!」
など、眼前で怒りのクレームを連発されます。(そりゃ怒るわな)と思いながら低頭平身でひたすら謝り続け、なんとか納得してもらいました。
ぜんぜん直らないエンジン
で、4時間後、食事を済ませた乗客たちが搭乗ゲートに戻ってきたのですが、ここで驚きの事実が。
メンテチームからの連絡で、やっぱ、あと8時間くらいかかるとのこと。
ここで一同、顔が青ざめ、どうするかを話し合いました。そして、、
乗客を全員、空港内の4つのホテルに分け、修理の目処がつくまで休んでもらう(もちろんホテルは無料)
ということになりました。
その時のメモがこちらです。(写真古くてすいません)
上から、シェラトン、ヒルトン、ヒルトンインターナショナル、ダブルツリーというホテルですが、僕の担当は2つ目のヒルトンになりました。
任務としては
1️⃣ 乗客の4分の1(75人)を、ヒルトンまで案内
2️⃣ 全員をチェックイン➕通訳
3️⃣ 自身はロビーで待機
4️⃣ 修理の目処が立ったら各ルームへ連絡→全員をチェックアウト
5️⃣ 空港ターミナルへ戻る
というもの。
結構、責任重大じゃないか‼️
(まだ入って3週間なんですけど)と思いながらも、やるしかありません。
乗客の怒り、極限に。。
さて、乗客を集め、追加で8時間遅延になるのでホテルに行ってしばらく休んでいただきたい、という旨をスタッフ全員で伝えました。
ここらからは、まさに地獄絵図です。
予想通り、さっきの比でないほど、みんな怒ります。
「損害賠償せい!」
「アホか!さっき4時間って言っただろ!」
「お前ら無能すぎるぞ!もうチャイナエアラインズは2度と使わん!」
と大声で喚かれます。もうカオスです。
乗客は国籍ごとに英語•中国語•日本語で話してきますし、新人の僕には答えられない内容の質問なので、ツライのです。
特に日本人の乗客🇯🇵は、こちらが日本人だと分かると、明らかに態度が変わり、最も困る理詰めを展開してきます。日本はクレーム大国だけあって1人1人の戦闘力が高いのです。正直、感情的に怒鳴られるよりも、冷静に理詰めされるのが、精神的ダメージが大きいです。
(戦闘力が高いのだ)
で、どうしようもなくなったので、途中から、日本語が分からない日系アメリカ人のフリをして、英語だけで返してみました。(外国人には言い返さない日本人の特性を逆に利用できないかと考えた)
すると、そこは外国人には寛容な日本人。手を緩めてくれ、しぶしぶ納得してくれます。そんな裏ワザを数回駆使し、ようやくみんなホテルに行くことを同意してくれました。
ホテルへ行く途中またもトラブル
そして、さっそく70人余りをエスコートし、エアトレイン(JFK空港内を走る電車)に乗って、ホテルに向かうことになったのですが、その電車内でもトラブルが発生しました。
僕たちとは何の関係もない一般のアメリカ人の乗客が、「この車両は混んでいるね!隣の車両は空いてるよ!こっちこっち!」と僕たちのグループに手招きをしてきたのです。
確かに、僕はグループの誰も迷子にならないよう、全員1つの車両に乗ってもらっていたので、僕たちの車両は混んでます。でも、この場合はそれでいいのです。
しかし、そんな事情を全く知らないそのアメリカ人は、純粋に親切心で、なおも手招きして、隣の車両に来るよう薦めてきます。
そして、、
恥ずかしい話ですが、なぜか僕は、突然ブチ切れてしまいました。
「Wtf! Don’t talk to my passengers! It’s not your f××king business!
(なんだお前!オレの乗客に話しかけるな!関係ないだろ!)」
その人に悪気がないのは頭ではわかっていたのですが、(こんな状況でみんなを必死にコントロールしてるのに、なんで邪魔するんだ!)という感情が優ってしまいました。
そのアメリカ人も怒り、言い返してきました。当然の反応です。その人は何も悪くありません。
で、僕のほうでもその時、失言だったと後悔してはいたのですが、一旦抜いた刀をそう簡単に鞘に納めるわけにはいかず、「うるさい!」と言いそっぽを向いてしまいました。
その後、僕は、この一連の流れを見ていた他の乗客からも苦言を呈されました。
ホテル滞在→再度、空港へ
そんなこんなで、やっとヒルトンホテルに着きました。
なかなか豪華です。
全員のチェックインを済ませ、手元の時計を見るともう夜の18:00です。
そこから会社からもらったクーポン券でホテルの夕食を食べて、ロビーで待つこと4時間。
ついに夜22:00に
「エンジン直ったよ〜!」
という知らせが届き、そこから各部屋に電話し、全員をチェックアウトし、空港に戻りました。
最後の乗客に言われたひと言
乗客300人全員の13時間遅れの再チェックインを済ませ、搭乗ゲートに行く頃には、すでに深夜の1:00になっていました。
夕方までは怒りを爆発させていた乗客たちも、この頃にはさすがに疲労困憊で、喋る気力もなくなっているようでした。
僕らスタッフも、12時間以上、緊張状態が続いているので、もうフラフラです。
ボヤける目でパスポートをチェックしながら、1人、また1人と機内に送り込んでいきます。
そして、ついに最後の1人、その人は50代くらいの台湾人の男性の乗客だったと思うのですが、
その人に、こう言われました。
「あなた方スタッフが1人1人、必死になりながら対応しているのを今日ずっと見ていた。本当にお疲れさま。ありがとう」
いや、、
なんか、、
もうなんか、、、ちょっと泣きそうになりました。
ずっとクレームを浴びたり、電車の中でキレたりして、すさんでいた自分ですが、このひと言で救われた感じがしました。
世の中には、こういう人もいるのですね〜。
その人も、自身はフライト遅延でとんでもない迷惑を被っているのに、それでもなお相手の気持ちを慮る。
カッコイイです。自分には到底できません。
(自分は2時間程度の遅延で、確実にキレます)
この出来事から、もう12-3年くらいが経ち、僕も40歳になったのですが、この時の言葉は今でも【歴代ありがとうTOP1】に君臨しつづけています。
当時、いつか自分もこういう対応が取れる器のデカい人間になりたい、と思いながらも、現在まで年だけを重ね、中身は全く成長していない自分に自嘲の思い。。