海外で長く生活していると、日本では経験しないような危険な場面に遭遇することが、たま〜にあります。
まあ、こんなのは結局、運次第なんですが、僕の場合は人生初の海外居住先であるオーストラリアのアデレードで、ある事件に巻き込まれてしまいました。
(この事件に関しては2011年10月にアデレードのローカルテレビ局の取材を受けたので、そのインタビューがネットとかに残ってるかもしれません)
今回はその当時のことを細かく書いていきます。
突然、玄関をノックする音が
2011年10月のある休日、僕は当時住んでいたアデレードのシェアハウスの一室でゲームをしていました。久しぶりに学校(社会人留学していた)も、嫌なバイトも何もない純然たる休日だったので、プレステ2のGodfatherというゲームを夢中になってしていたんですが、突然、家の玄関をドンドンと叩く音に気づきました。
ゲームの途中だったし、どうせ何かのセールスだと思ったので無視していたんですが、しつこくノックし、3分以上粘ってきます。
で、しまいには、
「Excuse me. Somebody’s here??(すいません、誰かいないんですか?)」
と玄関の外で叫んでくるので、せっかくの休日なのにうるさいなー、とイラつきながら玄関の方へ歩いていきました。
当時の家↓
そして、玄関のドアを開けたんですが、その瞬間ギョッとしました。
目の前にいるのは、セールスの販売員などではなく、マイクを持った白人女性とテレビカメラを担いだガタイのいい男性です。
そう、なんと彼らはアデレードの地元テレビ局のリポーターとカメラマンだったのです。
驚いている僕に簡単に自己紹介したあと、そのリポーターは突然、
「ラケシュ•◯◯◯を知っていますか?」
と聞いてきました。
ラケシュは、僕のインド人のルームメイトで、毎日彼の車(上の写真の軽自動車)で一緒にスーパーに買い物に行くほど仲の良い間柄だったので、
「もちろん知っている。ルームメイトです」と答えると、なんとそのラケシュが刺されたとのこと。
そして、まだ捜査中なので詳しいことは分からないが、①犯人が乗っていた車が盗難車で地元マフィアなどの犯罪組織の可能性があること、②動機は不明、③ラケシュは一命を取りとめ北アデレード病院に搬送された、という3点を伝えられました。
あまりのことに言葉を失っている僕に対し、そのリポーターは「ここ(玄関前)であなたにインタビューをしてもいいですか?」と言い、カメラマンもテレビカメラを構えるそぶりを見せます。
ここで、ようやく正気に戻った僕は、このまま僕たちのシェアハウスをテレビで流されては、もし相手が犯罪組織であった場合、のちに何らかのトラブルに巻き込まれる可能性が高いと判断し、家の敷地外に移動するという条件でインタビューを受けることにしました。(まあ本来、そんなのはテレビ局側で忖度してほしいところですが)
そして、インタビューが始まり、今の気持ちは?とかラケシュはどんな人物か?とかいろいろ質問をされ、途中ちょっと口を滑らせ「ラケシュは短気な部分がある」と答えてしまった一幕はあったものの、全体的にはラケシュは良いヤツで、犯罪組織に恨まれるような人間ではないことを伝えました。
そして、15分ほどてインタビューが終わると、すぐにタクシーで北アデレード病院へ向かいました。
刺された経緯
病院へ着くと、意外にもすぐに病室に案内され、ラケシュと面会できました。
左脇腹をナイフで刺されていましたが、命には別条ないとのこと。すでに処置も終わっており、痛みでほぼ動けないもののしっかりと会話はできる状態でした。
で、彼から聞いた事件の経緯は以下です。
その日Coles (オーストラリアの大手スーパー)で買い物を終えたラケシュは、車で駐車場から出ようとしていた。そのとき前から一台の車が入ってきて、ラケシュの車が邪魔だったのでクラクションを鳴らした。それに対し怒ったラケシュもクラクションを鳴らし返した。(基本ラケシュは短気)
すると相手の車のドアが開き、中から2人の男が出てきて、ラケシュの車のドアを強引に開け、ナイフでいきなり腹部を刺して、車で逃走した。
ラケシュは意識が朦朧とする中、なんとその車のナンバーを暗記し、警察に通報したうえで、救急車にも自分で連絡し、電話を切った直後に気を失った。
とのこと。。びっくりです。
というか、まず理由が結構しょうもないです。たぶんマフィアは関係ありません。
あと、なんでワザワザ鳴らし返すんだよ、ホント短気だな。。と心の中で思いながらも、そんな状況で車のナンバーを覚える冷静さや頭の良さには素直に感服し、
コイツ、もしや将来、大物になるかも。と思ったりもしました。
結局30分くらい話して帰ることにしましたが、帰り際にナースに入院期間を訪ねると、5日くらいで退院できるとのこと。ただし、その後しばらくは、家で縫った傷口の手当てが必要で、強い痛みもしばらく続くためルームメイトとしてできる限りのことをするよう頼まれました。
そして家に帰り、シェアハウスのオーナーや他のルームメイトにも事件のことを伝え、ニュースで僕のインタビューを見て、「大丈夫?」と心配して連絡してきてくれた友達にも全て返信しおえる頃には、夜の10:00をまわっていました。
いろんなことがあり、神経をすり減らした一日でした。その日は念の為、シェアハウスの倉庫で見つけた金属バットを枕元に置いて寝ることにしました。
退院したはいいものの、、
5日後、ラケシュは退院し家に戻ってきたものの、傷口が治っているはずもなく、かなり痛そうでした。
少し動くにも、かなり痛むようで、その度にウッーと痛みを必死に堪えている様子でした。それに身体の痛みだけではなく、精神的にも辛そうで、以前までの覇気がありません。
そりゃそうです。クラクションを鳴らし返しただけで、理不尽に刺され、身体以上に心も傷ついているでしょう。恐怖や悲しみや、ぶつけるアテのない怒りで精神状態はぐちゃぐちゃだったはずです。
さらに働いていたインド系レストランも休まなくてはならないため、収入もなくなり経済的にも苦しくなってしまいました(なので僕も1000ドルほど貸しました)
なんとか励ますため、いろいろ話を聞いたり、家事を手伝ったり、Youtubeで清原が松坂から日本シリーズで打った2ランを見せるなどしましたが(ラケシュはクリケット好きなので野球も好きかと思った)、なかなか元気にはなりませんでした。
そんな中とても印象的だったことは、ラケシュが母親と電話しているのを見た時です。ラケシュは普段からわりと頻繁にインドにいる母親に電話をしていたんですが、事件後、母を心配させまいと自分が刺されたことは絶対に言わないのです。しかし、ここ最近の息子の電話での様子に異変を察知した母親は、半狂乱になって「何があったの?最近あなた絶対におかしい!お願いだから言って!」と泣いて叫ぶのです。ラケシュから少し離れた位置にいる僕にもスマホからその悲痛な声が漏れ聞こえてきました。
で、その度に彼は力なく笑って「いや、何もない。大丈夫だ」とカラ元気で声をしぼり出すのですが、こういう場面を何度か目撃し、本当にいたたまれない気持ちでした。
(もちろん会話はヒンドゥー語なので分からないが、あとでラケシュに聞いた)
しかし、そんないろいろな困難がありながらも、3週間も経って完全に抜糸も終わる頃になると、徐々に痛みも引いてきたようで、だんだんと元の笑顔も出るようになり、徐々にではありますが、日常生活を取り戻していくことになりました。
後日談
ここからは、後で弁護士から聞いた話なんですが、当初盗難車と思われていた犯人の車は、実はレンタカーだったそうで、アデレード警察もそのレンタカーの業者に問い合わせたのですが、その業者のオーナーから【顧客の個人情報に関わるため、貸した相手は言えない】とびっくりするような理由で断られたそうです。そして、なによりも信じがたいのが、警察はそのくだらない理由に納得し、捜査をやめてしまったことです。
いや、人が刺されてるんですよ!?
弁護士が言うには、「もしこれがオーストラリア人の被害者だったら、何がなんでも犯人を捕まえるため警察も必死に捜査したはずだ。だが、彼はインドからきた出稼ぎの移民なのでそれほど重要視していないのだろう。どうしようもない。本当に残念だが。。」とのこと。
これには、ラケシュも僕も怒りを通り越し、なかば呆れ、どうせ訴えてもまとめに取り合わないだろう、と考え訴訟も諦めました。
(オーストラリアは一般的に安全•平等で良い国というイメージがありますが、こういう差別もあります。ただし、もう10年以上前のことなので今はわかりませんが)
また、僕は、その後アメリカでインターンをするためオーストラリアを離れる際、この時貸した1000ドルのことでラケシュと大いに揉め、絶縁してしまいました(その時のことは別記事で書きます)
ということで今回は以上ですが、この2011年に起きた事件はラケシュにとっても、僕にとっても、なんとも後味の悪い思い出です。
それと同時に、海外で生活するリスクや理不尽な差別があることを身をもって体験した貴重(と言ってはラケシュに失礼だが)な思い出でもあります。
これから海外に行く方、現在住まわれている方も、気にしすぎる必要はありませんが、こういった事件に巻き込まれないように十分注意していただきたいものです。
今回は以上です。ではまた次回!